沼津市にある私立加藤学園暁秀中学校3年4組。
国語を担当する一木先生の指導のもと、
「コミュニケーション」という概念を理解するために、新聞広告を分析し、実際に広告をつくる授業が行われた。
そもそも広告って何?というところから自分たちで考え、話し合いながらオリジナルの広告をつくる。彼らに与えられた題材は《沼津港》だった。
沼津市を代表する観光地でもある沼津港。
年間160万人以上が訪れるとも言われている。
しかし3年4組の生徒の約半数はそれまで一度も沼津港に行ったことがなかった。
いくつかのグループに分かれて、新聞の一面広告について話し合った後、実際の広告づくりに入った。
ここで特別講師が登壇。
沼津港で仲買業を営む小松正人さん。
小松さんは、日本の漁業全般の現状や沼津港の魅力や沼津の漁業の特徴などについて、わかりやすい言葉で語りかけた。
生徒たちが知らなかった港の姿がそこにはあった。
漁業に支えられて発展してきた沼津の街の歴史。
昔と今の港の違いや、商品に込められた熱意や港の人々の想いなど。
明るい話ばかりではなかったが、話を聞くうち生徒たちの表情は変わっていった。
小松さんは、生徒たちが実際に味を試せるように、鯖の缶詰を用意していた。
全国的に鯖節の需要が少なくなる中、新しい用途を模索し、小松さんが商品企画をした缶詰のオイルサバディンだ。その開発に隠されたストーリーも教えてくれた。
商品を実際に舌で味わうことでさらに興味が深まり、オイルサバディンを広告のテーマに決めたグループも出た。
商品の良さや、作る人の熱意を正確に伝え、そして売るためにはどんな広告を作ればいいのか。1つ1つの情報をもとにデザインをした。
自分達より年齢が上の人たちは、
何に購買意欲を掻き立てられるのか。
商品説明やキャッチコピーを練り上げ、広告を完成させた。
「中学生でもここまでできるんだ。」一木先生は驚いた。
こうして完成した広告を、地域でデザイン事務所を営む、デザイナーの松下達也さんと松下理恵子さんにプレゼンをした。
広告デザインのプロである彼らは「商品に対する愛に満ちている」と評価してくれた。
それから3か月後、3年4組の11名の姿は、狩野川沿いの風のテラスにあった。
オイルサバディンの広告を作った生徒たちが中心となって、小松さんのブースを手伝っていた。
笑顔で道行く人に声をかけ、試食をすすめた。
広告が完成した時点で、授業としての評価はすでに終わっていた。
その日生徒たちを動かしていたのは、
成績のためでも義務感でもなかったのかもしれない。
製造する人のこころに触れ、商品のよさを実感したオイルサバディン。
彼らにとってそれは、地元・沼津が誇るスペシャルな一品になっていた。
その日用意されていたのは、123缶。生徒たちは、そのすべてを売り切った。