沼津新仲見世商店街を進むと、いつか見たことのあるレトロな看板、そこに見えるのは純喫茶「ケルン」。
80代の藤原美恵子さん(みえこさん)と望月よし江さん(よっちゃん)が切り盛りする、昭和10年に開店したお店だ。
沼津市では、平成29年度の創業支援や事業継承のプログラムとして、将来的に起業したい人たちの為に、市内の7件の店舗でインターンを実施した。
インターンの受け入れ先として、純喫茶「ケルン」も参加して頂いた。インターンとして参加をしたのは、東京都出身の福田文さん。
福田さんは、祖父母の家が沼津市にあったこともあり、幼少期には春、夏、冬休みのほとんどを沼津市で過ごしていたエピソードを持つ。仲見世商店街やアーケード名店街には、幼い頃から祖父母と一緒に買い物に来ていた思い出が蘇る。ケルンにも何度も来たことがあるという。
福田さんの趣味は純喫茶巡りで、国内外を問わず年100件程巡っているそうだ。「1日かけて3件くらい巡るほどなんです」と笑う福田さんは、本当に純喫茶好きな事が伺える。
「作られたレトロではなく、歴史を積み重ねた真のレトロが好き」
昔から愛されてきたそれぞれの店の味わいや、深い個性を感じる時間が、福田さんの至福のひとときとなっている。
福田さんは、都内でIT関係の仕事をしている。モニターやスマホの中の仕事は嫌いではないが、ふと休日に、アナログな世界に入り込むことで、ライフスタイルのリズムが整う。
インターンのプログラムの前に食事を摂ることになった福田さん。
「お客さんに高齢者が多いから、ちょっとご飯を柔らかめに炊いています。ごめんね~。」 と、ここで60年以上勤めているよっちゃんが定食のごはんを福田さんに差し出した。
そんな細やかな優しさにも、独特のあたたかみを感じる。
店舗の2階が住まいだったよっちゃんが3月で引っ越ししてしまい、店主のみえこさんが一人で切り盛りすることになるため、近々店をやめようか考えているのだそうだ。しかし、ケルンを愛するファンは多く、この店を続けてほしいといった声をさまざまな場で聞く。
福田さんは、いつか純喫茶で働くことが夢だそうだ。
「全国的に、繁盛していても経営者が高齢のために閉店してしまうことが多く、私一人で一軒継いだとしても、ほかの純喫茶が助からない。なにか助けになったらと思う。ファン同士でネットワークが作れたら…。好きだからといって、やみくもに始める気はないので、いずれはやってみたい。」
プログラムの配膳や片付けを体験していたら、ますます愛着が湧いたそうで、満足気な表情を浮かべた。
「改めてこういったお店を残すために自分にできることを考える、いいキッカケになった。もしケルンを継げるなら、内装やメニューは変えずに、Wi-Fi設備などを設置して、新しいお客さんが来てくれるような工夫が必要だと感じた。現在は都内で開催される純喫茶好きのイベントを、常連さんにも受け入れてもらえるような形でできたらいいと思う。」と福田さんはにこやかに話した。
また、店主のみえこさんは、 「若い人が配膳とか接客とか手伝ってくれるのもいいもんだねぇ。」と嬉しそうに話した。
「ここ、昔は私のお父さんが始めた。だから、元々できていたものを私が継いだだけだから、一人になったらもうやめようかと思っていたんです…」 みえこさんは寂しそうに笑う。
沼津市内にはこのような自慢したくなるレトロなお店が多く、店主や従業員の高齢化が進み、後継者がいないために閉店に追い込まれてしまうケースも多いという。
このような店は沼津の宝と言えるだろう。街の魅力を残すため、新しい事業承継の形も生まれることを願う。